債務整理|利息制限法所定の利息の制限額を超えた場合の「過払い金」

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主文

1 本件控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
被控訴人(附帯控訴人)は,控訴人(附帯被控訴人)に対し,9万2054円及び内金1万円に対する平成18年1月17日から,内金6万2930円に対する同年4月26日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
控訴人(附帯被控訴人)のその余の請求を棄却する。
2 本件附帯控訴を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを4分し,その3を控訴人(附帯被控訴人)の負担とし,その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
4 この判決の第1項 は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

1 本件控訴の趣旨
原判決を次のとおり変更する。
被控訴人(附帯控訴人,以下「被控訴人」という。)は控訴人(附帯被控訴人,以下「控訴人」という。)に対し,9万5868円及び内金1万円に対する平成17年11月10日から支払済みまで年5分の割合による,内金6万2930円に対する平成18年4月26日から支払済まで年6分の割合による各金員を支払え。
訴訟費用は第1審,2審とも被控訴人の負担とする。
仮執行宣言
2 附帯控訴の趣旨
原判決中,被控訴人敗訴の部分を取り消す。
控訴人の被控訴人に対する請求を棄却する。
訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。

第2 事案の概要

1 本件は,貸金業者である被控訴人から継続的に金銭を借り入れ,分割返済を繰り返していた控訴人が,被控訴人に対し,利息制限法所定の利息の制限額を超えて利息として支払った金銭を元本に充当すると,過払い金が発生しているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払い金元金6万2930円,過払い金元金に対する平成18年4月25日までの利息2万2938円及び過払い金元金に対する商事法定利率年6パーセントの割合による同月26日から請求の趣旨拡張を内容とする準備書面が送達された日である平成18年8月30日までは利息,同月31日から支払済みまでは遅延損害金の支払を求めた被控訴人が控訴人の取引履歴開示請求を拒絶したとして,不法行為に基づく損害賠償金(慰謝料)30万円及びこれに対する開示請求日の翌日である平成17年11月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は,控訴人の不当利得返還請求について,過払い金元金6万2930円,これに対する平成18年4月25日までの年5分の割合による利息1万9124円及び過払い金元金に対する年5分の割合による同月26日から上記平成18年8月30日までの利息,同月31日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で,慰謝料請求について,慰謝料1万円及びこれに対する本訴提起の日である平成18年5月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ認容し,その余をいずれも棄却した。
これを不服として,控訴人が第1の1の判決を求めて本件控訴を提起し,被控訴人が第1の2の判決を求めて本件附帯控訴を提起した。
2 基礎となる事実(争いのない事実及び末尾記載の証拠によって容易に認定できる事実)
被控訴人は,関東財務局長の貸金業登録を受け,貸金業を営む株式会社である。
控訴人は,平成9年7月ころ,被控訴人との間で,継続的金銭消費貸借契約を締結し,同年12月25日から平成12年4月4日まで,同契約に基づき継続的に金銭の借入と弁済を繰り返した(以下「本件取引」という。)。(乙3)
控訴人は,平成17年11月ころ,本訴の代理人であるA弁護士に債務整理を依頼した。
A弁護士は,同月10日ころ,被控訴人に対し「受任通知及び債権調査へのご協力のお願い」と題する書面(以下「本件通知書」という。)を送付し,控訴人の債務整理を受任したこと及び個人再生手続の申立てを準備していることを通知するとともに,同月14日を期限として控訴人の取引履歴を開示することを求めた。(甲C1,以下「本件開示要求」という。)
被控訴人は,平成18年1月18日ころA弁護士に対し,同月17日付け「債権調査書」と題する書面(以下「本件調査書」という。)を送付した。
本件調査書には,「債権ありません。本日届出の債権額は,当社コンピューターに入力されている残債額です。」と記載されていた。(乙4)
A弁護士は,その後改めて被控訴人に対して取引履歴開示要求をすることのないまま,平成18年5月1日,控訴人の代理人として本件訴訟を提起し,被控訴人に対し,取引履歴開示義務違反を理由とする慰謝料の支払を求めた。
被控訴人は,同年6月26日,A弁護士に対し,本件訴訟に提出予定の文書として「計算書 」及び「請求高一覧」と題する書面をファックス送信し,控訴人との間の全取引履歴を開示した。(乙1,2)
本件取引における利息制限法超過利息を順次元本に充当すると,別紙利息計算書のとおり,平成12年3月27日の22万4830円の弁済によって初めて4万7930円の過払い金が発生し,最終取引である同年4月4日の1万5000円の弁済によって過払額は6万2930円となった。(以下,この金額を「本件不当利得金」という。)
3 争点及び当事者の主張
本件において被控訴人には,取引履歴の開示義務を負わない特段の事情があるか(慰謝料請求についての争点 )
(被控訴人の主張)
次の事情によると,本件においては,被控訴人に取引履歴開示義務を負わない特段の事情があったというべきである。
ア控訴人による取引履歴開示請求は,被控訴人との取引が終了して5年以上経過してからなされたものであり,貸金業法施行規則第17条が規定する取引履歴の保存期間すらすでに経過しているのであるから,被控訴人としては,控訴人に対して取引履歴を開示すべき信義則上の義務は負っていなかった。
イ取引履歴の開示義務を認めた最高裁判決は,貸金業者が借主の代理人弁護士から9回にわたって取引履歴の開示請求を受けたにもかかわらず,開示を一切拒否した事案である。
これに対し,本件では,被控訴人は,1回の取引履歴開示請求に対して「債権ありません。」との回答をしたにすぎず,A弁護士は再度の取引履歴開示請求が可能であったのに,これをしな
かったのであって,上記最高裁判決の事案とは全く異なる。
(控訴人の主張)
争う。
取引履歴不開示の不法行為の成立の時期(慰謝料請求についての争点 )
(控訴人の主張)
取引履歴不開示の不法行為の成立時期は,本件通知書が被控訴人に到達した,平成17年11月10日である。
(被控訴人の主張)
仮に本件において取引履歴不開示の不法行為が成立するとしても,取引履歴開示請求がなされたその日に不法行為が成立するとの解釈は妥当性を欠く。
相当な慰謝料額(慰謝料請求についての争点 )
(控訴人の主張)
被控訴人による取引履歴開示拒絶により,控訴人に生じた精神的損害を慰謝するには,慰謝料として30万円が相当である。
(被控訴人の主張)
争う。
控訴人は,債務整理をA弁護士に依頼し,取引履歴開示請求もA弁護士が行っており,自らの債務整理に直接関与していないことや,被控訴人が,原審第1回口頭弁論期日までに全取引履歴を開示したことからすれば,被控訴人に取引履歴開示義務違反があったとしても,控訴人の債務整理の妨げとはなっておらず,控訴人は,何らの精神的苦痛も受けていない。
本件不当利得金に付されるべき利息の利率は年5分か6分か(不当利得返還請求についての争点)
(控訴人の主張)
被控訴人は,悪意の受益者であるから,民法704条により,受けた利益に利息を付して返還すべきである。民法704条の趣旨は,悪意の利得者に利得を残させず,損失者が被った損失を完全に填補させるということであるから,不当利得の対象が金銭である場合,不当利得者は,その金銭の「運用利益」の金額と,損失者の「機会費用の損失」金額とを比較し,その大きい方を返還すべきである。
そして,被控訴人は,不当に得た利得を他の消費者に利息を付して貸し付け,商事法定利率を下回らないだけの利得を得ており,控訴人は不当利得金相当額を他の貸金業者から借り入れ商事法定利率を下回らないだけの損失を被っているから,本件不当利得金に付される利息の利率は年6分と解すべきである。
商人である悪意の受益者が返還すべき不当利得金に付する利息の利率を5パーセントと解したのでは,不当利得の善意の受益者であっても,民法703条に基づき金銭に利息を付して返還する義務がある(最高裁判所昭和38年12月24日判決・民集17巻12号1720頁参照)ことと比較して不合理である。
(被控訴人の主張)
争う。
不当利得返還請求権は,当事者間の商行為によって発生する債権ではなく,民法の規定により発生する債権であるから,商法514条の「商行為によって生じた債務」という要件を満たさない。
なお,過払い金返還請求権に対する消滅時効期間は民法上の10年間とされているところ,その利息の利率が商事法定利率の年6分と解釈するのは,同じ不当利得返還請求権に商事債権としての性質とそうでない性質を併有させることとなり,不当である。

第3 当裁判所の判断

1 本件において被控訴人には,取引履歴の開示義務を負わない特段の事情があるか(慰謝料請求についての争点 )
貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,保存している業務帳簿に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うと解すべきである。
そして,貸金業者がこの義務に違反して取引履歴の開示を拒絶したときは,その行為は,違法性を有し,不法行為を構成するものというべきである。(最高裁判所平成17年7月19日第三小法廷判決・民集第59巻6号1783頁参照)
本件において,これをみるに,次のようにいうことができる。
ア取引終了から時間が経過すれば,貸金業者側は,もはや取引履歴の開示要求や,不当利得の返還請求はなされないのではないかとの事実上の期待を抱くことはあるだろうが,借主としては,消滅時効にかからない限り不当利得の返還請求ができるのであって,その前提として取引履歴開示要求をすることは当然の行動であって,そのことが権利の濫用と評価されるいわれはない。
イ借主の1回の取引履歴開示要求に対しても貸金業者は開示義務を負うのであって,開示義務を負うために複数回の開示要求が必要だと解することはできない。
また,1回の開示要求に対して貸金業者がこれを拒絶すれば,特段の事情のない限り違法なのであって,開示拒絶を違法と評価するために複数回の開示要求が必要と解する理由もない。
ウそうすると,被控訴人の主張事実によっては,控訴人の取引履歴の開示要求が濫用にわたる等,被控訴人の開示義務を否定すべき特段の事情を認めることができないし,他に,特段の事情を認めるに足る証拠はない。
なお,本件において被告は,A弁護士に対し「債権ありません」と記載された本件調査書を返送しただけであって,取引履歴の開示を明示的に拒絶したものではない。
しかしながら,取引履歴の開示要求に対し,上記回答をしたのであるから,これは,暗に開示を拒否したものと評価すべきであって,これは違法性を帯び,不法行為を構成するというべきである。
2 取引履歴不開示の不法行為の成立の時期(慰謝料請求についての争点 )
上記のとおり,被控訴人は,A弁護士に対し本件調査書を送付することによって控訴人に対し取引履歴の開示を拒絶したのであるから,これによって不法行為が成立するというべきである。
控訴人は,損害賠償金に対する平成17年11月10日(本件開示要求がなされた日)からの遅延損害金を請求するが,取引履歴開示要求に応えてこれを開示するためには合理的な期間を必要とするのであって,開示要求がなされると同時に不法行為が成立するかの如き控訴人の主張は採用できない。
3 相当な慰謝料額(慰謝料請求についての争点 )
一般に,債務整理をしようとする多重債務者としては,早期に資産及び債務の額を確定し,債務整理の方法を検討し,今後の経済生活の見通しをたてる必要があり,そのためには,取引履歴の開示要求を受けた貸金業者がこれを速やかに開示することが肝要である。
これが遅れることによって,その多重債務者は,今後の経済生活の見通しが立たない不安定な状態に置かれることになるのであって,このことは,控訴人についても同様であったと推測できる。
そして,これによって控訴人が被った精神的苦痛は,被控訴人の上記不法行為と因果関係があるというべきである。
もっとも,開示された取引履歴によって計算した結果の不当利得額は,上記のように金6万2930円にすぎなかったこと,控訴人が本件訴えを提起した後,被控訴人は速やかに取引履歴を開示したこと等,本件にあらわれた一切の事情に鑑みると,控訴人が被った精神的苦痛は,金1万円をもって慰謝されるのが相当であると認められる。
4 本件不当利得金に付されるべき利息の利率は年5分か6分か(不当利得返還請求についての争点)
商行為である貸付けに係る債務の弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本として充当することにより発生する過払い金を不当利得として返還する場合において,悪意の受益者が付すべき民法704条前段所定の利息の利率は,民法所定の年5分と解するのが相当である。(平成19年2月13日最高裁判所第3小法廷・裁判所時報1430号1頁)
なお,控訴人は,不当利得の善意の受益者であっても,民法703条に基づき金銭に利息を付して返還する義務がある(最高裁判所昭和38年12月24日判決・民集17巻12号1720頁参照)から,上記結論は,善意の受益者も商人である悪意の受益者も返還の範囲が同一となり,不合理である旨主張する。
なるほど,善意の受益者であっても,社会観念上,受益者の行為の介入がなくても不当利得された財産から損失者が当然取得したであろうと考えられる範囲においては収益の返還を要すると解するべきである。
しかしながら,「受益者の行為の介入がなくても不当利得された財産から損失者が当然取得したであろうと考えられる範囲」とは,社会観念上,定期預金金利をもって観念されるところ,近年の金利動向に照らせば,上記範囲が民法所定の法定利息に到底及ばないことは明らかである。
そうすると,被控訴人が善意の受益者であれば,控訴人は,民法所定の法定金利に到底及ばない上記範囲の収益の返還を求めることができるのみであるから,控訴人が主張するような不均衡が生じないことは明らかである。
5 以上の検討の結果によれば,控訴人の本訴請求は次の限度で認容し,その余を棄却すべきことになる。
過払い金元金6万2930円
過払い金に対する平成18年4月25日までの民法所定の年5パーセントの割合による利息1万9124円に対する民法所定の年5パーセントの割合による平成18年4月26日から請求の趣旨拡張を内容とする準備書面が送達された日である平成18年8月30日までの利息,同月31日から支払済みまでの遅延損害金慰藉料1万円に対する不法行為の日である平成18年1月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金よって,本件控訴に基づき,これと異なる原判決を主文第1項 記載のとおり変更し,本件附帯控訴は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について民訴法67条2項,61条,64条を,仮執行宣言について同法259条1項を適用して,主文のとおり判決する。

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